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大阪家庭裁判所 昭和39年(少イ)48号 判決 1965年3月03日

被告人 大谷時松

主文

被告人は無罪

理由

本件公訴事実の要旨は、「被告人は、肩書住居地において「大松」という屋号で飲食店を経営しているものであるが、同店々員山加進が被告人の右営業に関し、昭和三九年一〇月二一日午後二時頃、同店において○田○男(当時一八年)及び○本○雄(当時一七年)の両名に対し、両名が未成年者であること及び両名の飲用に供するものであることを知りながら、ビール大瓶三本を供与した」というにある。

そこで先ず右「大松」の営業者が被告人であるか弁護人主張の如く法人であるかの点について検討するに、○田○男の司法警察員に対する供述調書中には同人は飲食店大松の経営者は被告人であることを刑事から聞いた旨、○本○雄の司法巡査に対する供述調書中には同人がビールを飲んだ店はホルモン焼飲食店大松KKこと経営者被告人方である旨、山加進の司法警察員に対する供述調書中には同人は飲食店大松経営者被告人の調理士見習として働いている旨、被告人の司法警察員に対する供述調書中には被告人は南保健所の許可を受けて大松という屋号で飲み屋を経営している旨の各供述記載がある。しかしながら右の被告人調書中には店は会社組織になつていて被告人が株式会社大松の社長をしていると述べている部分があり、さらに池本健次郎の検察官に対する供述調書及び大阪法務局登記官吏作成の株式会社大松の会社登記簿謄本に照らすと、前記各記載内容はそのまま措信することはできず前記各記載を以てしては被告人が飲食店を経営していることを認めることができない。却つて池本の右調書及び右会社登記簿謄本の記載によれば大松という屋号で被告人肩書住居地で飲食店を経営しているのは昭和三二年九月二六日に設立された株式会社大松であつて、被告人はその代表取締役であることが認められるから、未成年者飲酒禁止法第四条第三項によつて準用される明治三三年法律第五二号(法人に於て租税に関し事犯ありたる場合に関する法律)第一条によれば、処罰されるべきは法人たる株式会社大松であるということになる。

尚この点について、同法第二条には「法人を処罰すべき場合に於ては法人の代表者を以て被告人とす」という規定があるけれども、同条は訴訟関係において法人の当事者能力が認められず、法人を処罰すべき場合においても法人そのものを被告人となさず、その代表者を被告人としていた当時の規定であつて、その後旧刑事訴訟法第三六条第一項によりこの制度が改められ、法人の当事者能力を認めてこれを被告人とし、その訴訟行為については法人の代表者がこれを代表すべきものとせられてから(現行刑事訴訟法第二七条第一項も同趣旨)は、同法第二条は、事実上改廃せられ死文化しているものといわねばならない。

そうだとすれば、被告事件について犯罪の証明がないことになるから刑事訴訟法第三三六条により主文のとおり判決する。

(裁判官 木村輝武)

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